が、数発の砲声を以て、江戸城中を混雑せしめたる当時と今日とを並べ見るの利益を有する人々には我文明の勢、猶《なほ》飛瀑千丈、直下して障礙《しやうがい》なきに似たる者あらんか、東西古今文明の急進勇歩、我国の如きもの何処《いづく》に在る。
嘗《かつ》て加藤博士が国会猶早しと呼びたるの時代ありき、嘗て文部省は天下に令して四書五経を村庠《そんしやう》市学の間に復活せしめんとせし時代もありき、当代の大才子たる桜痴福地先生が王道論とかいへる漢人にても書きそふなる論文をものせられし時代もありき、ピータア、ゼ、ヘルミット然たる佐田介石師が「ランプ」亡国論や天動説を著して得々乎として我道|将《ま》さに行はれんとすと唱はれたる時代もありき、丸山作楽君が君主専制の東洋風に随喜の涙を流されし時代もありき、如此《かくのごとく》に我日本の学者、老人、慷慨家《かうがいか》、政治家、宗教家達は、我文明の余りに疾歩するを憂へて、幾たびか之を障《さゝ》へんとし、之が堤防を築き、之が柵門を建られつれど、進歩の勢力は之に激して更に勢を増すのみにして、反動の盛なると共に正動も亦《また》盛にして、今や宛然《ゑんぜん》として欧羅巴
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