させ、真一文字に寄手に突入って縦横に切って廻るので、寄手は勢に気を奪われた形である。盛政、徳山五兵衛尉を呼んで、長篠合戦の時、鳶巣山の附城を焼立てた故智に習うべしと命じた。徳山即ち神部《かんべ》兵大夫に一千騎を添えて、敵の背後の方へ向わせた。瀬兵衛の兵も、盛政の新手の勢の為に残り少なくなって居る処に、退《の》き口である麓の小屋小屋に火の手が挙った。今は是《これ》までと瀬兵衛敵中に馳せ入り斬り死しようとするのを、中川九郎次郎|鎧《よろい》の袖に取縋《とりすが》り、名もない者の手にかからんことは口惜しい次第|故《ゆえ》本丸へ退き自害されよと説いた。瀬兵衛、今日の戦、存分の働を為したから、例え雑兵の手に死のうとも悔いないと答えたが、ついに九郎次郎の言に従って、九郎次郎、穂三尺の槍を揮い、更に竹の節と云う三尺六寸の太刀で斬死して防ぐ間に自殺した。岩崎山の高山右近は、大岩山陥ると聞くや、一戦もせずに城を出て、木の本へ引退いた。大岩、岩崎を手に入れた盛政は得意満面である。早速勝家に勝報を致す。勝家はそれだけで上首尾である。急き帰陣すべしと命じるが、今の場合聞く様な盛政ではない。盛政「匠作《しょうさ
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