死にするように、下士たちの恭順論は、いつの間にか藩論を征服していた。東下論者は、声を潜めてしまった。
藩老たちは、同夜左のごとき、一書を尾州藩へ送って、朝廷へ帰順の取成しを、嘆願したのである。
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今般大阪表の始末|柄《がら》、在所表へ相聞え、深奉恐入候に付き上下一同謹慎|罷在《まかりあり》候。抑も尊王の大義は兼て厚く相心得罷在候処|不図《はからず》も、今日の形勢に立至り候段、恐惶嘆願の外無御座候。何卒《なにとぞ》平生の心事御了解被成下大納言様御手筋を以乍恐朝廷へ御取成寛大の御汰沙|只管奉歎願誠恐誠惶《ひたすらせいきょうせいこうたんがんたてまつる》 謹言
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酒井孫八郎
吉村又右衛門
沢|采女《うぬめ》
三輪権右衛門
大関五兵衛
服部|石見《いわみ》
松平|帯刀《たてわき》
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[#天から4字下げ]成瀬|隼人正《はいとのしょう》様
次いで、同月十八日、官軍の先鋒が鈴鹿を越えたという報をきくと、同文の嘆願書を隣藩亀山藩へ送った。
二十一日、鎮撫使から御汰沙の手控えが、亀山藩の手を通して
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