原に並んで立っていた五つの獄門台から、赤報隊の元凶たちの首級《しるし》は取り捨てられていた。そしてその後《あと》、代りに、その中央の獄門台に、若い武士の首級が一つ晒されていた。
 捨札には達筆で、次のように書いてあった。

[#地から1字上げ]桑名藩  新谷格之介
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 右者京畿ニ於テ錦旗ニ発砲シタルニ依ツテ羽津光明寺ニ謹慎仰付候ニモ拘ラズ潜カニ脱走ヲ企テ江戸ニ下向再ビ錦旗ニ抵抗致サントシタル段重々不埒至極依テ銃殺ノ上梟首スルモノナリ
  戊辰二月
[#ここで字下げ終わり]
[#地から1字上げ]官軍参謀

 格之介を除いた十二人の人々は、その年の四月、なんのお咎めもなく無事に帰藩を許された。
 格之介の逃亡の理由が分かるにつれ、桑名藩士も官軍の人たちも、格之介が風声鶴唳《ふうせいかくれい》におどろいて逃走を企て、捨てぬでもよい命を捨てたことを冷笑した。
 が、どうして格之介をわらうことができよう。彼は確かに、自分の首が載る獄門台が作られるのを見ていたのである。



底本:「菊池寛 短編と戯曲」文芸春秋
   1988(昭和63)年3月25日第1刷発行
入力:真先芳
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