して死にたくなかった。まして、殺された後に、自分の首が獄門台に晒されることを考えると、どんなことをしても死を免がれたかった。もう、とっぷりと暮れてしまった障子の外の闇のかなたに、白木の獄門台が、ずらりと並んでいることを考えると、水のような寒気《さむけ》が全身を流れるのであった。
そのあくる朝、桑名の藩士たちは銘々、覚悟を決めて床を離れた。が、起き出《い》でたものは、十三人ではなかった。格之介は、夜のうちに警護の者の目を盗んで逃亡してしまっていたのである。
五
「臆病者! 卑怯者!」
十二人は、口々に格之介を罵《ののし》った。が、中には、うまく逃亡した格之介に対する心のうちの羨望をそうした言葉で現しているものもあった。
築麻市左衛門から、格之介逃亡の旨を、警護の鳥取藩士に申し出でた。さすがに、その推定された逃亡の理由まではいわなかった。敵《かたき》となっている他藩の人に対し、同藩の者を臆病者にはしたくなかったからである。
「有様《ありよう》は、関東へ下って、慶喜《よしのぶ》公の麾下《きか》に加わって、一働きいたそうとの所存と見え申す」
市左衛門は、格之介逃
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