というからな。長州人と我々とは、元治以来、犬と猿のように啀《いが》み合っているからな。長州征伐の時、幕府の軍勢が浪花を発向の節、軍陣の血祭に、七人の長州人を斬ったことがござるじゃろう。あれは、桑名藩が蛤門の戦で捕えた俘虜だった。あれを長州人はひどく恨んでいるそうじゃから、あの轍で、征東の宮が伊勢をお通りになるときに、きっとわれわれは、その血祭というのになってしまうのだ」
小助は、絶望したように、自棄《やけ》半分にいちばん彼らにとって不利な想像を喋り散らしていたが、みんなは、それを単に、小助の想像だと貶《けな》してしまうわけにはいかなかった。
鎮撫使からの、手控えのうちに、「浪花ヨリ分散ノ諸兵」と、指摘されてある以上、それは彼らに対する有罪の宣告文であった。彼らが刑罰を受けなければならぬことは明らかだった。刑罰を受けなければならぬ以上、彼らは死を覚悟する必要があった。こうした乱世にあっては、死罪以下の刑罰は、刑罰ではなかったからである。
「あはははは、みんなこれじゃこれじゃ。覚悟をしておれば、何も狼狽《うろた》えることはない」
十三人の中では、いちばん身分の高い築麻市左衛門が、左の
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