た武士までが、ここへ来て以来、かなり沈んでいる。まして、最初からあまり勇敢でない新谷格之介が、心のうちで脅えきっていたのは当然である。
最初、彼らは自分たちの境遇については、何も話さなかった。みんな注意して、それに触れるのを避けた。それに触れることが、誰にとっても不快であったからである。
「万之助様のお身の上は、どうなったであろう」
彼らの一人がいった。
「本城の明渡しは、もう無事に済んだかしらん」
他の一人がいった。
「紀州へ落ちた人たちは、あれからどうしたであろう。まさか、紀州家が見殺しにはしないだろう」
第三の人がいった。
彼らは、努めて自分たち以外の人々の身の上を心配しているように、お互いに見せかけた。が、そんなふうに話をし始めても、少しもはずまなかった。銘々自分自身、心のうちに自分たちの身の上を思う心が、暗澹としていたからである。
一日経ち二日経ち、彼らの生死の不安がますます濃くなってくるにつれ、彼らはもう他人のことなどは、話している余裕がなくなっていた。
二十七日の午後である。十三人の中では、いちばん軽輩の近藤小助という男が、とうとう口を切った。それは、皆が口
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