るかを考えると、俺は一刻もじっとしてはおられないという気がする。俺が、研究室でバーナード・ショーの全集を漁《あさ》っているうちに、桑田はかねがね書くといっていた三幕物の社会劇を、もうとっくに書き上げているかも知れない。俺が、教室でくだらないノートを作っている間に、山野はもう半分以上訳了していたハウプトマンの「織工《おりこう》」の出版書店を、見つけたかも知れない。そう思うと、俺はいよいよ堪らない気がする。今年中に、山野と桑田とは、文壇にともかくも、一個の足溜《あしだまり》を築くかも知れない。俺はもう決してじっとしておられないのだ。
 俺は、彼らに対抗するために、戯曲「夜の脅威」を書いている。が、俺の頭は高等学校時代のでたらめの生活のために、まったく消耗しきっている。この戯曲の主題《テーマ》には、少し自信がある。が、俺のペンから出てくる台詞《せりふ》は月並みの文句ばかりだ。中学時代に、自分ながら誇っていた想像の富贍《ふせん》なことなどは、もう俺の頭の中には、跡形もなくなっている。が、ともかくこの脚本を書き上げる。脚本ができ上ったら、中田先生を訪問することにしよう。先生の好意で、俺の前途は案
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