どれだけいいことかわからなかった。京都に来て、彼らとまったく違った境遇におれば、彼らに取り残された場合にも言い訳はいくらでもある。また、京都に来たために、文壇に出る機会が、かえって早められるかも知れぬ見込みが、朧げながらあった。それは中田博士が、京都の文科の教授であることであった。博士は、もうよほど、文壇の中心から離れている。がそれでも文壇の一部とはある種の関係がある。博士の知遇を得さえすれば、案外早く文壇に紹介されて、俺の天分をあくまで軽蔑している山野などを、あっといわせてやることも、決して不可能でない。俺が、京都へ来た理由は、そういう点にもいくらかある。
十月一日。
なんとなく落着けない。ことに夕暮れが来るとそうだ。青い絨毯《じゅうたん》を敷き詰めたように、広がっている比叡《ひえい》の山腹が、灰色に蒼茫と暮れ初《そ》むる頃になると、俺はいても立っても、堪らないような淋しさにとらわれる。俺は自分で、孤独を求めてきた。が、その孤独は、すぐ俺を反噬《はんぜい》し始めた。しかも、俺の孤独の淋しさの裏には、激しい焦躁の心が潜んでいる。東京にいる山野や桑田などが一日一日どんなに成長してい
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