をいった。
「俺たちが、皆だんだん文壇的に認められていく。が、一人ぐらいはなんだか、取り残されそうだよ。皆が新進作家として、わいわい持てはやされている時に、自分一人取り残されている。ちょっと変なものだろうな。がその貧乏くじは、案外俺かも知れんて!」
 彼はそういいながら、自信にみちて哄笑した。そして、俺の方を意味あり気に、ちらっと見た。俺は、かなり嫌な気持になった。同じく創作家として、出立したもののうち、その一人がいつまでも、取り残されるということは、いかにも皮肉なことで、残される当人になってみれば、まったく堪らないことに相違なかった。が、実際そうした場合は、容易にあり得ることだ。天分にいちばん自信のない俺は、そんな場合を想像することを、努めて避けようとしている。しかるに、山野は俺や俺と同様に自信の薄い杉野などを、嫌がらせるために、そんな皮肉な場合を想像して喜んでいたのだ。
 唯一人、取り残される! それは考えてみても、淋しいことに相違なかった。俺は、東京にいて、山野や、桑田などと競争的になるのが、不快で堪らなくなった。彼らから間断なしに受ける、不快な圧迫から逃れるだけでも、俺にとって
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