なると、意識的に俺を圧倒しようと掛っていた。あいつは、自分の秀れた素質を、自分より劣った者に比較して、そこから生ずる優越感でもって、自分の自信を培《つちか》っているという、性質《たち》の悪い男であった。そして、その比較の対象となるのは、たいていの場合、俺だったっけ。いつだったか、俺が芳田幹三の、「潮」を読んで感心していると、あいつは「なんだ!『潮』が面白い!そいつは、少し困ったなあ」と、嘲笑したっけ。あいつの嘲笑は、人を突き放したまま、そばへ寄せつけないといったような、辛辣な嘲笑だった。あいつは、俺が少しでも、甘そうなものを読んでいると、きっと前のように嫌がらせをいった。それと同時に、俺がイプセンの「ブラン」のように少し難解な物を、読んでいると、
「ほう!『ブラン』かい! 君に分かるかい!」と、いいやがった。こんな時、俺はあいつを殴りつけてやりたいと思ったが、あいつの白皙《はくせき》な額と、聡明な瞳とを見ると、ある威厳を感じて、肉体的には俺よりもよっぽど弱いあいつを、どうすることもできなかった。あいつは、桑田、俺、杉野、川瀬などの創作家志望の連中ばかりが、集っている時に、よくこんなこと
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