俺たちにいちばん近い目標であった。あの人の眩しいほどに燦然たる出世が、その頃の俺たちの心を、どんなにそそっただろう。桑田は、そんな話が出ると、燃ゆるような瞳をして、
「なあに! 僕たちの連中だって、今に認められるさ。誰か一人有名になれば、もうしめたものだ、そいつが、残りの者を順番に引き立てていけばいいんだ」と、桑田は、その最初に名を成す者が、自分であるような自信をもっていった。
「そうとも、文芸部で委員をしていた者は、皆文壇的に有名になっているんだ。矢部さんを見ろ! 小山さんを見ろ! 和田氏を見ろ! 近藤さんを見ろ! 皆、文芸部の先輩じゃないか。なあに、文壇なんて、案外わけのないところさ」と、天才的で傲岸《ごうがん》な山野が、桑田に相槌を打ったっけ。俺は、こうした会話をきくたびに、山野や桑田などの烈しい希望や、強い自信の一部が、俺の心にも移入されて、なんとなく頼もしく思われたと同時に、将来の文壇において、真に名を成す者は、桑田や山野などで、自分はいつまでも彼らの陰に、無名作家として葬られるのではあるまいかという不安に、とらわれずにはいなかった。すでに、あの頃にも、山野は学校中を驚かした
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