者の俺がどんなに、贔屓《ひいき》目に見ても、やつらのものが段違いにいい。俺は、それを考えると、少し絶望的になる。が、山野や桑田の作品がよいばかりでなく、杉野や岡本のものでも、なかなかまとまった出来栄えだ。俺は杉野や岡本などの素質を、俺以下のものと見積って、やっと安心してきたが、その安心もどうやら根底から揺《ゆら》いできたようだ。俺は雑誌「×××」を手にしたまま午後三時頃から、七時頃まで夕食も食わないで、ぼんやり考え込んでいた。するとそこへひょっこり吉野君がやって来た。俺は、この時ぐらい吉野君を頼もしく思ったことはない。俺は、吉野君と一緒に「×××」の悪口をいいたかったからである。吉野君も恐らく、同じ目的で、俺を訪問したのかもわからなかった。
「やあ! 君も『×××』読んでいたのか。僕も今朝本屋で買ったよ。案外いいものはないね」と吉野君は、座に着くとすぐ、そこに落ちていた「×××」を弄《いじ》くりながら話し出した。俺は、吉野君の総括的な貶《けな》し方が、かなり気に入った。が、俺は「本当だ」とも相槌を打てなかった。実際俺はどの作品も感心していたのであるから、俺は恐々《こわごわ》ながら、

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