の主題は、今の文壇には一度も現れなかったような、奇抜なしかも深刻味のある哲学だった。もし、「顔」が、山野、否、俺の友人の作品でなかったら、俺はどんなに驚喜したことだろう。それが、俺の競争者しかも俺を踏みつけようとする山野の作品であるために、俺は全力を尽して、その作品から受ける感銘を排斥しようとした。が、俺は山野の作品の価値を認めぬわけにはいかなかった。が、それから連想されることは、山野が一躍して文壇に認められはしまいかということだ。俺はそれを考えると、いい気はしなかった。山野がいったん認められると、あいつは俺に対してどんな侮蔑をやるかも知れない。同人雑誌を発行したのは、山野の知らしてきたような手緩《てぬる》いものではない。俺はそれを思うと暗然たる気持がする。が、俺を圧迫したのはこの作品ばかりではない。その次に載っている桑田の小説「闖入者《ちんにゅうしゃ》」だって、渾然《こんぜん》としてまとまった小品だ。あいつのきびきびした筆致を見た時、俺は桑田にだってとても敵《かな》わないと思った。が、俺はそのことをなるべく認めまいと努力した。が、実際俺の「夜の脅威」を「顔」や「闖入者」に比べると、作
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