も杉野にでも泣きついて、同人に加えてもらう方が、俺にとって得策ではあるまいか。が、俺をばかにしきっている山野は、「富井などが、同人になるのなら、俺は差し控えた方が、いいかも知れない」ぐらいの毒言は必ずいうに決っている。そうなれば、かえって恥をかきに出るようなものだ。俺はやっぱり、独立してやってみよう。「夜の脅威」を書き上げたら、早速中田さんに見てもらうのだ。彼らが、同人雑誌などでもがいているうちに、俺のものは一躍して相当な文学雑誌に紹介される。俺は、それを考えていると、手紙を読んだ時に受けたむしゃくしゃ[*「むしゃくしゃ」に傍点]が、少しは癒えていくような気がした。
そこへひょっくり吉野君が訪ねてきた。俺は、早速東京の連中が、同人雑誌を出すことを話した。俺の口調はまったく平静を欠いていた。が、吉野君は、いつものように「朝日」を悠然と吸いながら、「なに君! 同人雑誌などへは、いくら書いても仕方がないものだよ。やっぱり大きい雑誌に書かなければだめさ。まあ桑田君などに、大いにやらせてみるのだね。そうお安くは問屋で卸さないから。僕は、同人雑誌などで、騒がないで、いいものができれば、『文学世界
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