』あたりへ持ち込むよ。昔の縁で、嫌とはいうまいから」
 俺は、吉野君が、同人雑誌を貶《けな》しつけるのをきいて、いくらか安心した。そして心のうちで山野らの「×××」が、一日も早く廃刊することを祈った。そして「×××」が、なるべく文壇から注目されないことを祈った。実際俺は、俺の全人格をもって、同人雑誌「×××」を呪っていたのだった。

 一月三十日。
 俺は、今宵初めて中田博士を自邸に訪うた。俺は感激にみちていた。が、考えてみれば、感激した俺の方がばかだったのだ。中田博士の方からいえば、ただ一人の学生の訪問を受けたのに過ぎないのだ。
 俺は、挨拶が済むとすぐ、俺の脚本を出した。
「ぜひ一つ御覧になって下さい。できはあまりよくありませんが、処女作ですから」
「なるほど」と、博士は顔の筋肉一つ動かさずにいった。そして、ちょっと二、三枚めくって見てから、「いずれ拝見しておきましょう」と、静かに付け加えた。俺が、山野らの同人雑誌に対抗するために、懸命の力を注いだ力作を、博士はなんの感激もなしに、俺の手から受け取った。俺はそれがかなり淋しかった。
「よかったら、どこかの雑誌へ」と、そんなことは、口
前へ 次へ
全45ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング