は雑誌「×××」の同人としてその若々しい名を、文壇に認められていったのだ。山野や桑田が認められる順番も、もう決して遠き未来ではない。山野、桑田はもちろん、俺とは天分において、あまり相違はないと思われる岡本や川瀬や杉野でさえ、これでもう的確に、文壇に打って出る第一歩を踏み出しているのだ。しかるに俺は、山野が手紙の中にあれほど軽蔑した「文学研究」を唯一の本領として、独りぼっちで、捨てられているのだ。
 俺は、山野や桑田が俺を同人から除外したにしろ、俺とはかなり親交のある川瀬や杉野までがなんらの好意を示してくれなかったことを、恨まずにはおられなかった。
 俺は山野の手紙をずたずたに引き裂くと共に、絶望的な勇気を振い起した。彼らが同人雑誌で打って出るのなら、俺は単独で出て見せる。そして彼らの鼻をあかして、あっといわせてやろう。がそう決心しているうちにも、深い淋しさがひしひしと俺に迫ってきた。俺に独力で出る力があるか、俺は自分の天分を、それほどまで信ずることができるだろうか。俺が、山野や桑田などに反感を懐いて、彼らを遠ざかれば遠ざかるほど、文壇に出る機会から遠ざかっているのではあるまいか。今度で
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