しい。締切は一月三十日限だ。まあ刮目《かつもく》して、僕たちの活動ぶりを見てくれ給え。僕たちは本当に黎明が来たという気がする)
 おしまいまで読み終った俺は、烈しい嫉妬と憤《いきどおり》とを感ずると同時に、突き放されたような深い淋しさを、感ぜずにはおられなかった。
 この手紙のどこにも、君も同人になってはどうかとか、君も書いてはどうかというような文句は、破片さえも入っていないのだ。すべては山野の遊戯的な悪意から出た手紙だ。同人雑誌の発行を、凱旋的《トライアンファント》に報じて孤独に苦しんでいる俺を、あくまで傷つけてやろうという彼の性質《たち》の悪い悪戯だ。同人に加えない俺には、少しも必要のない初号の締切期日などを報じて、俺を苛だたしてやろうというあいつの悪意が、歴然と見え透いている。
 山野が予期していたよりも以上に、この手紙は俺を傷つけた。京都へ来てからまだ半年にもならない間に、俺と東京に残した友達との間に、早くもある間隔が作られつつあることを悲しまずにはおられなかった。同人雑誌の出版! それはどんなに華々しいことであろう。文壇に時めいている我々の先輩たる川崎も、矢部も、辻田も、初め
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