与力同心が調べて罪科が定まった者は、奉行が判決を下すことになっていた。越前が、長吉の調書を見たとき、「此者は本所《ほんじょ》緑町《みどりちょう》に住まっているが、町民の間では義賊と云う噂がある。同人から、金銭を恵まれたる貧民は、数限りもないほどである」と云う備考書がついていた。
 本来ならば、佐渡送りの罪科であるが、その備考書に、心を動かされた彼は、三年位の島送りにしてやろうと思っていた。
 が、直接白洲で本人の顔を見た時、越前の心は更に動いたのである。色白のやさ男で、呉服屋の手代のような顔をしている。手代と云って、手代の中でも武家屋敷へでも、出入りする位の品格を持っていた。が、その事よりも長吉の人相が、越前が頭の中に思い浮べた隠徳の相の一つに、あまりにもピッタリしているのである。

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「顔色ハ白黒ヲ問ハズ眼中涼シクシテ、憂色ヲフクミ左頬ニヱクボアリ、アゴヤヤ長シ」
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 隠徳の相として挙げられているのは、三項ある。これが、その一項で、長吉はそれに、寸分の隙《すき》もなく、あてはまっているのだ。
 なるほど、これなら近所の貧民に恵んでいる筈
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