たいへんな、ハリキリ方である。それで、越前も仕方なく、
「拙者、今月は月番でござるから、来月になりましたら改めてお願いに参る」
 と、その場は話を打ち切った。越前は、そのままにするつもりでいたところ、月が更《かわ》ると、左膳の方から、いきなり押しかけて来た。
 来られて見ると、越前も否応なく左膳の講義をきかないわけには行かなかった。
 聴いて見ると、なかなか興味があるので、越前も耳をかたむけた。
「お忙しい貴殿だから、肝心な要点だけをお伝えしよう」
 と云う前置きで、左膳の教え方は、なかなか実際的であった。召使いの男女などを連れて来させて、臨床的《ポリクリ》な講義だった。
 左膳は、三日にあげずやって来た。越前が、拙者の方からお邸へお伺いすると云ってもきかなかった。
「いや、貴殿が日々のおさばきに、人相を利用して下さると云うことは、われわれ人相学者にとっては、大慶至極な事じゃ。これで、人相学も世に行われ、貴殿の名奉行ぶりも一段と冴《さ》えて来る。拙者としても、こんな教え甲斐のある相手はない」
 と、左膳は、同じことをいく度もくり返して云った。
 左膳も、相手の熱心さにつられて、ついつい
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