けてやるから、百姓をいたすがよかろう。わしの知行所の村は、わしが貧乏人の出来ないように、数年来心を用いたから、お前が恵んでやりたいような貧乏人もいない、またそちが金を取りたくなるような金持もいない筈だ。その上、ここ十数年来盗難など一度もない、もし今度あったら、直ぐそちがやったと云うことになる。どうだ、長吉、そこへ行って見るか」
「怖れ入りました。ありがとうございます」
と、長吉は、容易に頭を上げなかった。越前は、木鼠長吉を再び笞刑に処した。もし、老中などから異議があっても、堂々と申し開くだけの自信があった。
ただ、あまりに人相の鑑定がピッタリ当ったうれしさに、相手をあまやかしているのではないかと云う、自分自身の反省には、しばらくの間悩まされたのである。
底本:「捕物時代小説選集6 大岡越前守 他7編」春陽文庫、春陽堂書店
2000(平成12)年10月20日第1刷発行
底本の親本:「新今昔物語」芝書店
1948(昭和23)年
入力:岡山勝美
校正:noriko saito
2009年9月10日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空
前へ
次へ
全19ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング