う気がありませんから、そのおかみさんの前に立って、あたらしい買いたてのひもでむすばせました。すると、そのばあさんは、すばやく、そのしめひもを白雪姫の首をまきつけて、強くしめましたので、息ができなくなって、死んだようにたおれてしまいました。
「さあ、これで、わたしが、いちばんうつくしい女になったのだ。」といって、まま母はいそいで、でていってしまいました。
それからまもなく、日がくれて、七人の小人《こびと》たちが、家にかえってきましたが、かわいがっていた白雪姫が、地べたの上にたおれているのを見たときには、小人たちのおどろきようといったらありませんでした。白雪姫は、まるで死人のように、息もしなければ、動きもしませんでした。みんなで白雪姫を地べたから高いところにつれていきました。そして、のどのところが、かたくしめつけられているのを見て、小人たちは、しめひもを二つに切ってしまいました。すると、すこし息をしはじめて、だんだん元気づいてきました。小人たちは、どんなことがあったのかをききますと、姫はきょうあった、いっさいのことを話しました。
「その小間物売《こまものう》りの女こそ、鬼《おに》のような女王にちがいない。よく気をつけなさいよ。わたしたちがそばにいないときには、どんな人だって、家にいれないようにするんですよ。」と。
わるい女王の方では、家にかえってくると、すぐ鏡《かがみ》の前にいって、たずねました。
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「鏡や、鏡、壁《かべ》にかかっている鏡よ。
国じゅうで、だれがいちばんうつくしいか、いっておくれ。」
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すると、鏡は、正直《しょうじき》にまえとおなじに答えました。
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「女王さま、ここでは、あなたがいちばんうつくしい。
けれども、いくつも山こした、
七人の小人《こびと》の家にいる白雪姫は、
まだ千ばいもうつくしい。」
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と、このことを女王さまがきいたときには、からだじゅうの血《ち》がいっぺんに、胸《むね》によってきたかと思うくらいおどろいてしまいました。白雪姫が、また生きかえったということを知ったからです。
「だが、こんどこそは、おまえを、ほんとうにころしてしまうようなことを工夫《くふう》してやるぞ。」そういって、じぶんの知っている魔法《まほう》をつかって、一つの毒《ど
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