一のうつくしい女になったと安心していましたので、あるとき鏡《かがみ》の前にいって、いいました。
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「鏡や、鏡、壁《かべ》にかかっている鏡よ。
国じゅうで、だれがいちばんうつくしいか、いっておくれ。」
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すると、鏡が答えました。
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「女王《じょおう》さま、ここでは、あなたがいちばんうつくしい。
けれども、いくつも山こした、
七人の小人の家にいる白雪姫《しらゆきひめ》は、
まだ千ばいもうつくしい。」
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これをきいたときの、女王さまのおどろきようといったらありませんでした。この鏡は、けっしてまちがったことをいわない、ということを知っていましたので、かりうどが、じぶんをだましたということも、白雪姫が、まだ生きているということも、みんなわかってしまいました。そこで、どうにかして、白雪姫をころしてしまいたいものだと思いまして、またあたらしく、いろいろと考えはじめました。女王さまは、国じゅうでじぶんがいちばんうつくしい女にならないうちは、ねたましくて、どうしても、安心していられないからでありました。
そこで、女王さまは、おしまいになにか一つの計略《けいりゃく》を考えだしました。そしてじぶんの顔を黒くぬって、年よりの小間物屋《こまものや》のような着物《きもの》をきて、だれにも女王さまとは思えないようになってしまいました。こんなふうをして、七つの山をこえて、七人の小人《こびと》の家にいって、戸をトントンとたたいて、いいました。
「よい品物《しなもの》がありますが、お買いになりませんか。」
白雪姫はなにかと思って、窓《まど》から首をだしてよびました。
「こんにちは、おかみさん、なにがあるの。」
「上等《じょうとう》な品で、きれいな品を持ってきました。いろいろかわったしめひもがあります。」といって、いろいろな色の絹糸《きぬいと》であんだひもを、一つ取りだしました。白雪姫は、
「この正直《しょうじき》そうなおかみさんなら、家の中にいれてもかまわないだろう。」と思いまして、戸をあけて、きれいなしめひもを買いとりました。
「おじょうさんには、よくにあうことでしょう。さあ、わたしがひとつよくむすんであげましょう。」と、年よりの小間物屋《こまものや》はいいました。
白雪姫は、すこしもうたが
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