》って、馬は狂奔して敵中に入ろうとした。幸い、馬が中途で斃れたので、地上に投げ出された。そこを、薩兵つけ入ろうとしたのを、大橋伍長が身を以って防ぎ、摺沢《すりざわ》少尉も返し合せて、身には数弾を受けながら乃木を救った。全隊辛うじて木葉川を渉って、川床で始めて隊伍を整える事が出来た。乃木は、さんざんの苦戦であったのである。
 二十六日早朝、乃木はまた先陣として高瀬に向ったが、再三の敗北を残念に想い、兵を励まして奮闘した。薩軍は高地に拠って居るので味方は甚だ苦戦したが、ついに正面の断崖を攀《よ》じ、安楽寺山を越え更に木葉に至った。その上に前軍は既に田原坂《たばるざか》を占領したとの報がある。勇躍した乃木は後軍の直に続かんことを伝えたが、意外にも三好少将の退却の命に接した。乃木は此地一度失うならば、再び得難い旨を進言した。けれども許されない。止むなく退却したのであったが、もし、此の時田原坂を占領していたならば、田原坂の難戦は起らずに済んだかも知れない。
 薩軍もまた、桐野は山鹿方面から、篠原は田原方面から、羽田は木留《きどめ》方面から、各々高瀬を攻略しようとした。二十七日には、この薩軍は第一
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