(黙ってうなずく)……。
九郎助 お前が俺に入れてくれるとして、あとの一枚だ。俺、この一枚をとるためには、片腕でも捨てたいのだが。
弥助 冗談いっちゃいけねえ! そう思いつめなくとも大丈夫だよ。喜蔵だって、お前に入れねえものじゃねえよ。
九郎助 あいつは、俺とこの頃仲がいいからなあ! あと一枚だ。あ、あと一枚だ。(じっと腕をくむ)
    (水を飲みに行った人々、どやどやと帰って来る)
喜蔵 あんなにぎりめしを、もう十五、六食いていや。
浅太郎 あれでも、一時の虫抑えにはありがたい。さあめしはすんだ。入れ札を早くやってもらおうか。
喜蔵 心得た。
    (彼は、懐中より懐紙を出し、脇差をぬいて幾片かに切断する。みんなに一枚ずつ渡す)
喜蔵 矢立の筆は、一本しかねえぞ。なるべく早く書いて回してくれ。書いたやつは、小さく折って、この割籠《わりご》の中に入れてくれ。
忠次 札の多い者から三人だぜ。
十蔵 ええ承知しました。
喜蔵 十蔵、お前からかけ!
    (十蔵に筆を渡す。めいめいつぎつぎ筆を借りて書く。弥助書き終え九郎助に近よりて)
弥助 そら兄い、筆をやるぜ。
    (弥助、約
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