をひらきながら) いいか。みんな聞いてくれ。あさ[#「あさ」に傍点]。仮名であさとしか書いてねえや。だが浅太郎に違いねえ! 浅太郎が一枚(みんなに紙片を見せる)おや、今度も浅太郎だ。浅太郎が二枚!
忠次 (わが意を得たりというように、にっこり笑う)
喜蔵 今度は、喜蔵だ(紙片を見せながら)どうだい。うそじゃねえだろう。喜蔵が一枚!おや、その次がまた喜蔵だ! ありがたい! みんなは、やっぱり目が高いや。どうだい! 喜蔵が二枚だ!
(喜蔵は、得意げに紙片を高くする。九郎助は、ようやく焦燥の色を現す)
喜蔵 おや何だ。丸で、金くぎだ、何だ。くーろーすーけか九郎助だ。九郎助が一枚だ。
(九郎助狼狽し、激しく動揺す)
喜蔵 その次は浅だ。これで浅太郎三枚だ。おやありがてい、その次はまた喜蔵だぞ。喜蔵は三枚だ。その次は浅太郎だ。浅太郎が四枚。おやその次はまたこの俺さまだ。喜蔵四枚だ。これで俺と浅太郎はたしかだぞ。おやその次が嘉助だ。
嘉助 しめた!
喜蔵 これで浅とおれが、四枚ずつ、九郎助と嘉助とが一枚ずつだ。二人の勝負だ。
嘉助 あと一枚だな。ちょっと待ってくれ、俺と出るか九郎助と出るか。
九郎助 俺だとも。なあ、きまってらな弥助!
弥助 (黙って答えず)……。
喜蔵 さあ! あけるぞ。どっちだ丁か半か。九郎助か嘉助か。ああ。……嘉助だ。
九郎助 なに、嘉助だって。
(九郎助、身をもがいてくやしがる)
浅太郎 やっぱり、みんなは正直だ。ありがてい。やっぱり親分のためを思ってらな。みんなありがとう。お礼をいうぞ。親分のことは俺たちが引受けた。
才助 じゃ、浅兄い頼んだぜ。
忠次 じゃ、みんな腑に落ちたんだな。それじゃ、浅と喜蔵と嘉助とを連れてくぜ。九郎助は一枚入っているから連れて行きていが、最初《はな》いった言を変改することはできねえから、勘弁しな。さあ、先刻からえろう、手間を取った。じゃ、みんな金を分けて、めいめいに志すところへ行ってくれ。
喜蔵 (五十両包みをこわしながら)さあ、みんな遠慮なく取ってくれ。(喜蔵。遠慮する子分たちに、分けてやる)九郎助兄い。何を考えているのだ、われも手を出しなせえ。
(九郎助、不承不承に手をさし出す)
忠次 じゃ俺たちは、一足先に立つぜ。みんな気をつけて、行ってくれ。
一同 親分、ごきげんよう。お気をおつけな
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