。みんなは、忠次の突然な申出に、どう答えていいか迷っているらしかった。一番に、乾児達の沈黙を破ったのは、大間々《おおまま》の浅太郎だった。
「そりゃ、親方悪い了簡《りょうけん》だろうぜ。一体俺達が、妻子|眷族《けんぞく》を見捨てて、此処《ここ》までお前さんに、従《つ》いて来たのは、何の為だと思うのだ。みんな、お前さんの身の上を気遣《きづか》って、お前さんの落着くところを、見届けたいと思う一心からじゃないか。いくら、大戸の御番所を越して、もうこれから信州までは大丈夫だと云ったところで、お前さんばかりを、一人で手放すことは、出来るものじゃねえ。尤《もっと》も、こう物騒な野郎ばかりが、つながって歩けねえのは、道理《ことわり》なのだから、お前さんが、此奴《こいつ》だと思う野郎を、名指しておくんなせえ。何も親分乾児の間で、遠慮することなんかありゃしねえ。お前さんの大事な場合だ! 恨みつらみを云うような、ケチな野郎は一人だってありゃしねえ。なあ兄弟!」
 みんなは、異口同音に、浅太郎の云い分に賛意を表した。が、そう云われてみると、忠次は尚更《なおさら》選みかねた。自分の大事な場所であるだけに、彼等
前へ 次へ
全23ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング