中で、旧友の中で法学士になっている連中を数えてみた。高等学校時代の知合いで、法学士になっている連中は、幾人もいることはいたが、郵船会社にはいって洋行したり、政治科を出て農商務省へ奉職したり、三菱へはいっている連中などばかりが思い浮んで、自分の相談に乗ってくれそうな、法律専門の法学士はなかなか思い当らなかった。その中に、ふと綾部という自分の中学時代の友人が、去年京都の地方裁判所をよして、東京へ来て、有楽町の××法律事務所に勤務していることを思い出した。上京当時、通知のハガキをくれたのだが、その××という有名な弁護士の名前が、不思議にはっきりと、自分の頭に残っていたのである。
 自分は、綾部が、三高にいたときに会って以来、六、七年ぶりに、彼を訪ねた。彼は、学生時代と見違えるほど、色が白くなっていた。そして、三、四年の間検事をやっていた名残りが、澄んだ、そのくせ活気のない、冷たい目のうちに残っていた。彼は、快く自分を迎えて、自分の小説の筋に適合するような犯罪を考えてくれた。刑法の条文などをあちらこちら参考にしながら、かなり工夫を凝《こ》らしてくれたのである。その上に、彼はこんなことをいった。
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