。
細川の先鋒長岡佐渡等の一隊は、四方に四郎時貞を求め探した。その士陣|佐左衛門《すけざえもん》は、火煙をくぐって石塁中に入って見ると、一少年の創を受けて臥床するのを発見した。一女子|傍《そば》に在って嘆き悲んで居る。佐左衛門躍り込んで少年の首を斬って出ようとすると、女が袖を放さない。三宅半右衛門が来て、その女をも斬った。
忠利、少年の首は時貞のであろうと信綱の見参に入れた。時貞の母を呼んで見せると、正しく時貞の首であった。
かくて籠城以来、本丸に翻って居た聖餐《せいさん》の聖旗も地に落ちて、さしもの乱も終りを告げたのであった。
これより先、寄手の放った弾丸が、原城中の軍議の席に落ちて、四郎を傷けたことがある。城兵は、四郎を天帝の化身のように考え、矢石当らず剣戟《けんげき》も傷くる能《あた》わずと思っていたのに、四郎が傷いたので、彼等の幻影が破れ、意気|頓《とみ》に沮喪したと云われる。
幕軍は、城中に在ったものは老幼悉く斬って、その首を梟《さら》した。
天草の乱平ぎ、切利支丹の教えは、根絶されたと思われた。
しかし、こぼれた種は、地中にひそんで来ん春を待っていた。
明治
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