盛んな篝火《かがりび》は、寂然《せきぜん》たる本丸を、闇の中に浮き出させて居た。
 二十八日卯の頃、総軍十二万五千余は、均《ひと》しく内城に迫った。城中の宗徒も今日が最後と覚悟したから、矢丸《やだま》を惜しまず、木石を落し、器具に火をつけて投げ、必死に防ぐ。攻囲軍たじろぐと見ると門を開いて突出したが、反撃に支え切れず再び城に逃げ込んだ。
 寄手はそこで石火矢を放ったから、城内は火煙に包まれて、老弱の叫声は惨憺たるものである。
 板倉重矩|緋縅《ひおどし》の鎧に十文字の槍をさげ、石谷十蔵と共に城内に乗り込んで、
「父重昌の讐《かたき》を報ぜん為に来た。四郎時貞出でて戦え」と大呼した。
 会々《たまたま》宗徒の部将有江|休意《よしとも》、黒髪赤顔眼光人を射る六尺の長身を躍《おどら》して至った。重矩の従士左右から之に槍を付けようとするのを、重矩斥けて立ち向った。重矩の槍が休意の額を刺し、血が流れて眼に入ったので、休意は刀を抜いて斬りかかって来た。重矩抜き合すや、休意の右肩を斬り下げてついに斃した。
 後に間もなく、信綱知って之を賞し、水野勝成は自ら佩《お》ぶる宇多国房の刀を取って与えたと云う
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