を打ち破る事は出来たが、城中の戦略は十二月の時と同じく、弾丸弓矢大石の類は雨の如くである。卯の上刻頃には、先鋒有馬勢が崩れたのを切っかけに、鍋島勢、松倉勢、みな追い落された。立花勢は友軍の苦戦をよそに進軍しないから、貞清之を促すと、「諸軍の攻撃によって城は今に陥るであろうが、敵敗走の際に我軍之を追わんが為である。且つ旧臘《きゅうろう》我軍攻撃に際しては諸軍救授を為さなかったから、今日は見物させて戴く事にする」と云う挨拶である。一旦退いた松倉勢も再び攻めようとはしないので、重昌馬を飛ばして、「今度の大事、松倉が平常の仕置き悪しきが故である。天下に恥じて殊死すべき処を、何たる態である」と、詰問したけれども動く気色《けしき》もない。板倉重昌、石谷貞清両人の胸中の苦悩は察するに余りある。重昌意を決して単身駆け抜けようとするのを石倉貞清止め諫めると、重昌、我等両人率先して進み、諸軍を奮起させるより途《みち》はないと嘆いた。進軍して諸軍を顧みるが誰も応じようとしない。従うはただ家臣だけである。重昌その日の出立《いでたち》は、紺縅鎧《こんおどしのよろい》に、金の采配を腰に帯び、白き絹に半月の指物さし
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