ことなど、およそ自分とは関係のないような顔をしていた。むろん、礼もいわなかった。
今朝も、夫人の親類に当る木賀子爵という青年が、東京から三、四日の予定で遊びに来ると、夫人はその青年と乗馬で、鬼押出しの方へ遠乗りに出かけてしまった。出がけに、ちょっと病室へ顔を出し、そこに新子がいるのを見ると、
「この子の熱は、四日目には、きっと平熱になるんですよ。主人なんか、毎度大さわぎをやりますんですけれど――あまり子供を大事にし過ぎると、かえって結果がよくありませんからね。本なんかも、あまり読んでやったりなさらないように、病気のときなんかかえって神経を刺戟し過ぎますし、また本を他人によませて、聴くなんていい習慣じゃありませんからね。」
新子が、膝の上にのせていた「漫画常設館」という本を、ちらりと見ていった。自分が新子に本の頁《ページ》を切らせたのを忘れたように。
しかし、新子は夫人が出て行くと、すぐ祥子に本をよんでやった。
祥子は、かわいそうな話と恐い話が好きで、アラビアン・ナイトの悪魔を壺へ封じ込める話など、幾度もくり返して聴きたがった。
小太郎も、祥子の部屋に遊びに来た。さわやかな午前
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