物を出して、ともかくも着かえてから、部屋を片づけた。
(これが、生活なのだ。これが世間なのだ。これが奉公なのだ。部屋は、これでちょうどいいのだ。さっきまでのは良すぎたのだわ)と、新子は妙に、イライラした自分の神経をなだめるように、胸の中でいった。
奥さまのところへ、挨拶に行くのが何となくおっくう[#「おっくう」に傍点]で、不快で、しばらくの間ぼんやりしていると、さっきの女中が来て、
「奥さまが、お部屋でお目にかかるといっていらっしゃいます。」と、いった。
奥さまの部屋は、二階に在り、子供達に案内してもらって一度見たことがある。新子の部屋から廊下を真っ直ぐに、三段ほど上って母屋の二階へ出ると、主人の部屋と並んでいた。
バルコニイのある貴族趣味の、いかにも別荘らしい瀟洒《しょうしゃ》たる部屋で、ぜいたく[#「ぜいたく」に傍点]を極めていた。
白い色を多く使った明るい家具が置かれ、バルコニイ近い豊かなソファに、軽い紗のアフタヌーンを被《き》た夫人が、あだかも大公妃のような態度で、彼女を待っていた。
五
新子は、準之助氏と一しょに散歩に出たことについても、きっと叱
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