「美沢さんという方、思いのほか親切な方ね。」と、美和子は、楽しげなといき[#「といき」に傍点]のようにいった。
八
姉妹が帰ったとき、母はまだ起きていた。
圭子は、二階で勉強しているとみえて、階下《した》へ降りて来なかった。
美和子は、すぐ二階へ上ってしまったが、新子は母と二、三十分、着物を着換えながら、前川家のことなど、少し話してから自分の部屋へ上っていった。
美和子は、新子の部屋で、一しょに寝ることになっているので、もう床の中へはいり、うつぶせに雑誌を見ていたが、後からはいって来た姉を上目づかいで見た眼には、まだ楽しそうな微笑があふれて、もっと、何か話したそうである。
新子は、自分が美沢の家で、待ちくらしている間、妹が美沢と楽しく遊んでいたのだと思うと、心の平静が失われて、この上不愉快なことを聴くまいと、クルリと背を妹に向けて、床にはいった。
「ねえ。お姉さま!」美和子が、姉の背中に話しかけた。
「ほら、靴下が破けたから、買いたいって、云っていたでしょう。相原さんのお家を出てから、気がついたの。だから、私美沢さんとお別れして銀座へ行こうと云うと、あの
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