イに命じて、後は前川の張りついたような顔に、愛らしく笑いかけて、
「貴君の奥さんと、やり合ったんで、喉が乾いちゃったの。……でも、不愉快だわ。」
「貴女が、やり合ったんですか。」前川は、気の毒なほど、蒼くなっていた。
「そうだわ。だって、新子姉さんは、何にも云わないんだもの。だから、マダム、俄然《がぜん》威張っちゃって、お姉さんを泣かしてしまったんだから……」
「お店で、ですか。」
「お店で、始まりそうだったから、二階へ上げちゃったの……」
「二階でね。」前川は、秘密の核心を衝かれたように、憂鬱な顔になって、
「しかし、こんなに早くどうしてあの店が分ったんでしょう。」
「圭子姉さん、ご存じ?」
「知っています。」
「あれが、マダムに籠絡《ろうらく》されているんだから、世話はないの。私が圭子姉さんに頼まれて、だらしなく案内してしまったの。」
「圭子姉さんか、ウッカリしていた……」
 物事の径路がハッキリして来ると、今までは半信半疑であった事件が、マザマザと考えられて来、妻の露骨な仕打ちが、わが事のように羞《はじ》らわれて来た。
「奥さんも、随分思い切ったことなさるわねえ。たとい、お姉さん
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