聞くと、
「帰っちゃった!」と、舌を出した。
「だって、貴女、ほんとにひどいこと云うんだもの。」
「ひどいって、どちらが……。あれは、一体何をして生きている人種《ひと》ですか。苦労知らずの奥様で、お金があって、暇があって、旦那様をお尻に敷いて威張っている上に、ちょっと貧しい同性は、目の敵《かたき》にして、こっちの困ることなんか、おかまいなしに、すぐ出て行けだなんて……人を馬鹿にしているじゃないの、もっと苛《いじ》めてやればよかった。あたし、あんなのと喧嘩するの大好きだわ。」
美和子が、おどけた口調でいうので、場合を忘れて、新子もちょっとほがらかになりながら、
「だって、貴女だって、あの奥様の立場になれば、きっとああだわ。」
「モチ、あたしだったら、もっと凄くなっちゃう。」と、艶《あで》やかな笑顔をしてみせた。
妹の思いがけない奮闘で、急場の難儀を逃れたことを、嬉しく思うものの、しかし新子の心境はみだれていた。
前川が、夫人に対する態度をよく知っており、それを改めることが、前川にとって不可能であると思われるだけに、夫人にすべてが知られてしまった現在では、前川と自分との交際も、これが
前へ
次へ
全429ページ中414ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング