子供らしい彼女の受口の舌の中には、少しは的はずれでも、とにかく相手のどこかを突き刺す毒の針が、無数に含まれている。
新子は、眼を伏せたっきり、問答は全く、夫人と美和子に移って、彼女は圏外に出された形である。
夫人は、今まで、わがまま一杯に育ち、人を権柄ずくにやっつけることには、巧みでも、一度相手から逆撃されてみるとたちまち勝手が違い、カッとのぼせ上って来、気の遠くなるほど、美和子が憎らしくなりながら、口の方はかえって辛辣さを無くしていた。
「私は、別に埃のないところを叩いてやしません。それが証拠に、新子さんは恐れ入ってるじゃありませんか。」
美和子を避けて、弱い姉を衝こうとした。
七
美和子は、また奮然として、
「お姉さんだって恐れ入っているもんですか。お姉さんは、あんまり良心がありすぎるから、たった一月お世話になったことを考えて、遠慮しているだけよ。こんなに慎みぶかいお姉さまを危険視するなんて、大間違いだわ。お姉さんを、警戒する前に、奥さまは、手近な前川さんの心臓を、しっかりお握りになっているといいんだわ。」
これは、美和子の揮《ふる》う論理の中でも、
前へ
次へ
全429ページ中411ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング