り!」と、何かうれしいことがあるらしく、おのずからはずむ声高く呼びかけたのは、思いがけもない妹の美和子である。
七
「まあ、美《みい》ちゃん、こんなに遅く!」と、新子は、つい自分の遅いのも忘れて、姉らしくとがめた。
「だってえ。相原さんのところに九時までいたんでしょう。それから、靴下を買いに銀座へ廻ったんでしょう! 遅くなるはずよ。それよりも、お姉さん、わたしとてもいい人に逢っちゃったのよ。」と、息をはずませている。新子は、妹の逢った人など、およそ興味がないといったように、だまって足早に歩きつづけていると、
「ねえ。お姉さん、誰だか当ててみないこと。」
「知らないわよ。」少し邪慳《じゃけん》につっぱねると、
「ううん。お姉さまの知っている人よ。」と、思わせぶりな、口のききように、新子もやや釣り込まれて、
「だあれ。」と訊くと、
「当てなきゃ云わない。」と、今度は妹の方でじらしにかかるので、
「じゃ聴かない。」と、新子ははしゃいでいる妹の気持に、つき合うのが少しうるさくなっていると、
「お姉さんのとてもよく知っている人よ、私、相原さんのところで、逢うなんて、とても意外
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