子に対する良人《おっと》の心づかいが、行き届いているとは思っていなかった。
階下を見て驚き、二階へ上ってみて、新子の私室《プライヴェト》らしい小部屋を見て、驚いた。
すべては、小ぢんまりとしていたが、季節の飯蛸《いいだこ》のように、充実している。階段を上るとき電話が引かれているのも見逃さなかった。
夫人は憤《いきどお》らしさと口惜《くや》しさと、良人に対する馬鹿馬鹿しいといった嘲《あざけ》りを覚えるだけで、良人の愛情にのみ生きている妻のように、嫉妬から来る苦痛は少しも感じず、こんなにまで、良人の世話を受けていては、どんなに面詰しようとも、相手はグウの音も出まいと思うと、彼女の心は躍り、眼は輝き、新子が上ってくる二、三分の間《ま》も、もどかしいほど、心がはやるのである。
新子は、このまま逃げ出してしまいたいような、激しい衝動《ショック》を感じて、藁《わら》をもつかみたい今の気持には、美和子に勇気づけられたことで、やっと心を落着け、メズーサの首のようにも恐ろしく思える夫人に直面すべく、階段に足をかけた。
階段を上って行く姉の後姿《うしろすがた》に、さも絶望したような憐れな
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