「………」
 新子は、ふらふらしたらしく、後《うしろ》の衝立《ついたて》によろけかかりそうになった。
「いいじゃないの、お姉さま、何も恐がらなくってもいいじゃないの。何も、お姉さま、なにも悪いことしてないんでしょう。グズグズいえば、お姉さまだって、いうだけいえばいいじゃないの。」
「だって、なまやさしい方じゃ……」と、新子がいいかけたとき、待ちきれなくなったらしい夫人が、扉《ドア》から早くも半身をのぞかせて、
「私は、はいってもいいでしょうね。」と云った。
 新子は、そのまま立ち竦《すく》んでしまったように、夫人から視線をそらすことも、首を下げることも出来ずに茫然としていた。
 夫人は中へ足を踏み入れながらも笑顔を見せていたが、それは異常な緊張の微笑である。こうなると夫人の高雅な鼻の形などは、それだけの凄味を呼ぶのであった。

        五

 新子は、夫人の姿を見た瞬間からあさましさと、恐ろしさとで、床のないところに立っているような感じがして、身体がわなわなふるえた。
「随分立派ね。」夫人は、新子にも会釈もせず、部屋の中を一わたり見廻した後、なすところを知らず、棒立になっている
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