「え!」新子には、何と云ったのか、ちょっと分らなかった。
「いや、あの前川夫人ですよ。あの人は、貴女も知っているとおり、嫉妬という点になると、まるで猟犬か何かのように敏感ですからね。怪しいと見ると、どんな手段でも取りますよ。あの人は、僕なんかも、貴女に対するスパイとして、利用しようとしているんですからな。ところが、僕はスパイを勤めるような顔をして、久しぶりに貴女に会いに来たんですよ。」
「じゃ奥さんは、私がここにいることご存じなんですか。」新子は蒼くなっていた。
「いや、ハッキリは知らないんです。しかし、貴女が銀座のある酒場《バー》にいることは知っていますよ。」新子は、それを聞くと、自分のやや安定していた生活が、グラつき揺がされたような気がした。
「誰が、そんなこと話したんでしょう。」新子は、何となく恨めしそうだった。
「誰ですかな。しかし、僕が来たことは安心して下さい。僕は、夫人のスパイを勤めるよりも、必要によっては、貴女のために、策動しますよ。」
「………」
 新子は、木賀の相変らずの朗かな調子に、随《つ》いて行くことが出来なかった。木賀も、やや、真面目になって、
「貴女のために、
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