態度で、トイレットから出て来た。
「ねえ。あの人に来てもらいたいわ。手紙を出しても、いいでしょう。」
「一度、よしてもらった人に、また来てもらうなんて、可笑《おか》しいじゃないか。それよりも、高等師範の学生か何かで、適当な人は、いくらでもあるだろう……」前川は、一語一語に気をつけ、芝居の台詞《せりふ》でもいうように、静かに云いながら、夫人の眼を探るように、ひたと視線を合わした。
「だから、よさせたのは、私軽率だったんだから、私あの方と会って、潔《いさぎよ》く謝ってもいいのよ。でも、可笑しいわねえ、貴女が反対をなさるとは、おほほほほほ。」
夫人は、前川の窮状を知っているかのように、気持よげに笑った。
十
前川は、笑う夫人の眼の中に、邪悪な喜びの影を見たように思った。何か新子について聞込んだに違いないと思うと、今宵くちづけの感激も消えはてて、当惑せずにはいられなかった。
「でもあの方、まだ職業が見つからないで、お困りになっているのじゃないかしら……もしそうだと私、いよいよ呼び返してあげたいの……」夫人は、まことしやかに、眼を輝かした。前川は、容易に動かされず、
「僕
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