の眼にさえ、急に若々しくお成りになったように映るんですもの……いい加減、気になってしまうわ。貴君、何かお出来になったんじゃない?」
 前川は、首筋に、氷片を落されたような気持ながら、しかし色には出さず、
「おかしなことを云うね。何か出来たって、何が……」と、とぼけて訊き返すと、
「愛人か……そんなものよ。」前川は、ドキッとして黙ってしまった。しかし、夫人はさる[#「さる」に傍点]者、ニヤニヤ笑いながら、
「ねえ……」と、眼顔で押して来た。

        八

 前川は、急所を突かれながらも、それが夫人の臆測にすぎないと知ると、ホッと安心して、
「そんな冗談にも洒落《しゃれ》にもならないことを云うものじゃありませんよ。そんなことを云えば、貴女だって、この頃は頓《とみ》に、美しく若々しいじゃありませんか。」
「嘘おっしゃい」
 酒の下地で、常よりは、やや図々しい前川に、夫人はちょっと業腹《ごうはら》で、ヒステリックに、その話を打ち切って、別の手を考えていた。
 習慣で、どんなに遅くっても、就床前に必ず歯を磨く前川が、室内の奥についている洗面所《ウォッシュ・スタンド》の方へ歩いて行く後姿
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