明日にして……」と、逃げようとすると、
「厭よ。用事の話じゃないんですもの。貴君ったら、いつでも私が話をしようとすると、鹿爪らしくお取りになるけれど、たまには無駄話だってしたいわ。私眠くないんですもの。眠れそうにもないし、少しの間、話し相手になって下さるご親切が、あってもいいと思うわ。」
「だって、遅いよ。もう十二時過ぎてるし……」
「それは、貴君が遅くお帰りになるからいけないのよ。意地悪ね。」
そんなことをいいながら、夫人は執拗な態度で、前川の寝室へまで、はいって来た。
前川は、内心薄気味わるく思いながら、ソファにかけた夫人に背を向けて、ネクタイを解き始めた。
「ねえ。」
「………」
「下世話に云うでしょう。ほら、四十を過ぎて始まった道楽は、なかなか止まないって! 心配だわ、私……」
変に、女房らしいことを云い出されて、前川は思わず、クスリと、唇辺《くちびるへん》に笑いを浮べて、
「何を話し出すかと思えば、そんなつまらんことを。ふざけているのかい!」と、砕けて訊いた。
「いいえ、真面目よ。だって、この頃お酒は召し上るし、それに以前よりお帰りが幾らかずつ遅いし……それに、何だか私
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