っとも、臨時の買物などする時は、別であるが。だから、良人の小切手帳は、その二千円の支出を除けば、全部良人の身辺の費用に当てられたはずである。八月から九月にかけての日付を探っていると、控えの方に何の名目も書かれずに振り出された金額が、ザッと計算して、八千円余に上っている。

        三

 もしや、新子へとは、すぐ疑ったが、しかし、金額があまりに、大きいので、良人がそんなに新子へと思うと、ちょっと信じがたかった。
 しかし、姉の演劇運動の後援をするくらいでは、新子にはどんなことをしてやっているかもしれず、その酒場も、案外良人が出してやったのかも測りがたい。もし、そうだったら、良人と新子との関係は、もうかなり深いところまで、行っているのに、相違ないと、夫人の頭の中には、嫉妬から生れるみにくい臆測が充満した。
 気がついてみると、もう八時を廻っている。夫人は、驚いて階下に降りると、女中を促して、自動車の用意をさせて、帝国ホテル演芸場へと急がせた。
 着いてみると、医学博士のお嬢さんはもう舞台で、「鷺娘《さぎむすめ》」を踊っている。満員の客席の間を、足音を忍ばせて、座席に着いた。
 祥
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