で、ちょうどいたいけな祥子《さちこ》くらいの女の子に、本式に日本舞踊を習わせていて、その踊りの師匠の花柳|何某《なにがし》の春秋二度の発表会に、今日がその子の初舞台である。
 帝国ホテルの演芸場へ、お義理に引き受けた切符、日頃の交際の手前、ちょっとだけは顔出しをしなければならなかった。
 一人で行くことに決めていたのだけれど、出がけに急に気が変って、その子の踊りだけを見ればよいので、それが終ってしまった後の時間|潰《つぶ》しに、良人《おっと》と一しょに銀座でも歩こうと、急に良人を誘う気になり会社へ電話をかけさせた。と、お帰りになったという。食事をすませて来るのかと、一時間ばかり待ったのに、前川はまだ帰って来ないのであった。わがままな、憤《いきどお》りやすい夫人は、じりじりして来、こうなって来ると妙にしつこく、良人を残して外出することが出来なくなった。
 電話をかけに、下へ行った女中が妙に遅いので、自分も階下に降りてみると、扉《ドア》の半開きになっている電話室から、
「はア。まだお帰りになっていらっしゃいません。」と、いう別な電話を受けているらしい声が、また、じりじりと癇癪《かんしゃく》
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