明けた。
「じゃ、問題はないじゃありませんか。そんなに、瞼《まぶた》の赤くなるほど、泣くには当らないじゃありませんか。」乱暴にいいながらも、胸の中には、火のように、いとおしさが、こみ上げて来ているのだった。
「あら、だって――美和子は、美沢さんをほんとうに好きでもないくせに、誘惑したように……今度はまた!」と、いって新子は、その平生の賢さに似ず、なまめかしいまでの羞恥《しゅうち》に、もだえて両手で顔を掩《おお》うた。
「今度は、またどうしたと云うんですか……」
「今度は……羞かしいわ。」
 前川は、新子の云おうとしていることが分っているに拘らず、それを新子に云ってもらいたい慾望に燃えて、
「今度は、どうしようと云うんですか。」
 新子は、顔から両手を離し、その熱くほてっている頬を撫でながら、
「だって、あの子出鱈目なんですもの。貴君にだって、どんなことをするか、分らないんですもの。さっきだって、私が階下《した》へ降りないと云うと、じゃ前川さんがお帰りになっても知らないなんて、憎まれ口云うんですもの。私が、持っているものには、すぐ手を出したがるんですもの。とても憎らしいわ。」
 美和子を
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