なかったが、清純な仇《あだ》っぽさが――そんな言葉が許されないとしたら――特別な風情が、新子のからだには、流れていた。
 襖《ふすま》一重の姉圭子の部屋は、およそ異人種でもが住んでいるほど、区切られて特異であった。
 床の間一杯に、おびただしい和書洋書が積み重ねられ、明り取りの円窓の近くに、相当古いがドッシリとした机が置かれ、その前の皮ばりの椅子に、圭子は腰かけていた。
 壁には、外国の名優の写真らしいのが、銘々白い框《かまち》の縁に入れて三つかかっていた。
 小さい水彩画と、ピカソの絵葉書、その脇には圭子自身の製作らしい麻布《あさぬの》に葡萄《ぶどう》の房のアプリケが、うすよごれた壁をすっかりかくしていた。
「話って?」新子は、姉の机の脇に立った。
「佐山さんが、貴女《あなた》が私達|姉妹《きょうだい》の中では、一番|曲者《くせもの》だっていっていたわよ。」と、圭子が、微笑しながらいった。
「それは、どういう意味?」
「貴女には、聖母のような清らかさと、娼婦のようなエロがあるんだって! 恋愛でもしたら、男殺しという役だって!」
「へえ。そんなこといった? だって、佐山さん、一度しか私
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