子が見つけたのだろうと、驚きながら答えた。
四
(ああ)と応じた前川の言葉に、人言《ひとこと》を真似る鳥のように、美和子も、
「ああ。」短く同じように領いて、ジッと見ていたが、いきなり親しげに眸を輝かせると、
「分ったわ。貴君《あなた》ですのね。」と、云った。前川は驚いて、首をかしげ、
「貴君ですのねって、何です?」訊き返した。
「いいの。いいの。何でもないの。」と、女学生風な親しげな物云いを残して、バー・スタンドの方へかけて行ってしまった。
「可愛い子ですね。少し酔っていますね。」
「そうだね。」前川の連れは、そんなことを呟き合っていた。
新子は、前川がどんな種類の友達と一しょに来ているか分らないし、――もっとも、ここへ来る以上、自分が挨拶に行って構わないだろうけれど、なるべくなら、普通の客のように扱うのがいいだろうと、いつの間にか日陰の女がするような心配を、している自分が、淋しく思われた。それにしても、帝劇で前川をチラリと見て知っているはずの美和子が、連れも構わず、下らないことを云い出しはしないかと不安になった。
美和子は、バーテンに前川の註文を通すと、姉の
前へ
次へ
全429ページ中275ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング