た。
美和子は、洋服を着て、化粧して降りて来ると、すぐ、新子の肩につかまって、
「お小遣いが欲しいの、……」と、いった。
「一ト月に、二十円で足らなくて……この頃は三十円くらい使うって、お母さまがこぼしていらしたわよ。使い過ぎるわよ。」
「使い過ぎるも、過ぎないもないわ。実際けちくさいンだもの。お友達に気がひけて仕方がないわ。」
「交際《つきあい》を、お断りすればいいじゃないの。昨夜《ゆうべ》シネマに行ったばかりだし、……」新子は、意地の悪い皮肉な顔をした。
「お姉様のひどい人、……いいわ、文無しだって、どうにかなるわよ。」と、ぷーんとして、くるりと後《うしろ》を向いてスタスタ行きかけるのを、母親が、
「この日盛りを、病気になってしまうよ。お止しなさい。」
「氷じゃあるまいし、とけやしないわ。」母にまで、八ツ当りして、靴を穿いているのに、新子は立って行って、
「お姉さんだって、お金ないのよ。これだけ、持っていらっしゃい。」と、出してやるのを、
「不要《いら》ないわ。」と、後向きのまんま、格子戸を締めて、駈け出してしまった。
二
その日の晩、十二時はとくに打ったの
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